◆ No.293： 帰国 (2007.7.10) ◆

入国審査と手荷物チェックを済ませて搭乗口へ。
搭乗まで約１時間30分。ひさびさに何もない時間。
空港内に、あの、黄色いポストがあった。
しばらく前に、切手と絵葉書を買っていたのだけど、ばたばたと時が過ぎてしまってけっきょくかけなかったお返事のはがきを１通、空港内で書いて投函する。

フランスと別れを惜しむ間もなく空港に走ってきたので、せめて上空からフランスを眺めようと、窓際の席にしてもらったのだけど、飛行機のシートに座ったとたんに眠り込んでしまって、とんとんと隣に座っていたマダムに肩をたたかれて目を覚ますと、機内食が運ばれてきたところだった。
どうも２時間以上眠り込んでいたようで、なんと、飛行機が離陸したのにも気がつかなかった。
飛行機の離着陸の瞬間の、非常時の説明やら、ゴゴゴという振動やら、機体のミシミシきしむ音やらに、いつも少々緊張するのだが、それらの記憶が全くなくて、気がついたらロシアとの国境近を飛んでいて、びっくりする。

機内食を食べ終わって、パリの街を思い出して・・・
なんだか、パリで一番懐かしく感じられるのは、道ですれ違った時に「ボンジュール」とあいさつを交わす行きつけのパン屋さん、ときどきタバコを買いに行くと「これでしょ」といっていつものタバコを出してくれるタバの奥さん、スーパーで買い物をした後いつも「ボン・ソワレ」と声をかけてくれるレジ係のお兄さん、いつもコンテとブリ・デ・モーのチーズを買っていて、たまにコンテしか買わないと「きょうはブリはいらないの？」と茶目っ気たっぷりに聞いてくるチーズ屋さん・・・
そういった、名前も知らない、さよならも言わずにわかれてきた人々。
そして、そんな「隣人」たちとといっしょに暮らしてきた街と、普段の生活の日々。
そんな人々と街が、たまらなくいとおしくなる。

＊　＊　＊

ぼくにとって、パリのいちばん魅力的なところは、パリには、いろんな人種の、いろんな価値観の人が、それぞれにそれぞれの生活を営んでいて・・・、それは、一見お互いに無関心で冷たく見えつつも、でも、それとなく自分と異なる価値観の相手も隣人として認めているような、そういう雰囲気。
ぼくは、あやしいフランス語の外国人なのだけれでも、それでもパリの住人の一人として扱われている感触が、こちらに来て間もないころからどことなく感じられて、― それは、ときには他のパリの住人同様の無遠慮にきつい扱いを受けたり、ときには他のパリの住人同様の小さな親しみの言葉を交わしたり、といった場面で感じられるのだけど― そういう、器が広くて、さばさばした、この街と住人たちが好きだ。

これは、たとえば日本であると、身内にはべったりと馴れ合った関係になり、他人やよそ者には冷たく距離を置く感じになるのだけれども、そういう、日本の息苦しい関係でも、排他的な関係でもなくて、これを、なんといったらいいんだろう？
・・・こういうのを「友愛」とか「博愛」とかと呼ぶのだろうか？

この、ぼくにとってのパリのいとおしさは、たとえば、自分の演奏会に来てくださったお客さんたちとの間に感じる感覚と、なんとなく似ている気もする。
演奏会に来てくれたお客さんには、顔も名前も知らないような、もう２度と会うこともないかもしれない人たちがたくさんいて、でも、演奏中に、なんとなくそういう人たちひとりひとりと気持ちが通じ合っているように感じる瞬間があって、その瞬間にはすべての人がいとおしく感じられて・・・、というような、そういう感覚。

ぼくにとってのパリは、そういうようなところ。

＊　＊　＊

香港で、日本行きの便に乗り継ぎをする。
こんども窓側の席。
香港から日本への便では、飛行機が滑走路に向かって動き出したところまでは覚えているのだけれでも、そのあと、また眠ってしまって、やはり離陸した瞬間の記憶は全く残っていない。

もうしばらくでホンコン。


ホンコン上空。


ホンコンの空港。この雑記を書いている。


ホンコンから日本へ。


中部国際空港。出口。
この後、別送品荷物の通関手続き。


12:30ごろ。
自宅まで行くへ電車がなくて、２つ前の駅で降りるがタクシーは来なかった。

◆ No.292： パリの最後の日 (2007.7.9) ◆

最後の日の夜明け。このあと、1時間半仮眠。

8:30。YAMATOのドライバーが9:00に来てくれる。早く来てくれて助かった。ドライバーは、入国時に荷物を持ってきてくれた人と同じ人だった。
10:30から、アパートの現状確認と電気の検針。あっという間に終わって、これも助かった。
11:00に体が空いたので、室内楽の子に「体が空いたので、自分で郵便局に行きます。ありがとうございました。」と電話する。郵便局で「コリッシモ」という国際ゆうパックみたいなのを買ってくきて、いったん戻り、ダンボールと荷物の合計重量を測る。

11:30。メトロでHさんのところに体重計を返しに出かける。
いつものマリ橋の上。こちらにきたときのような、夏の空。

2:00、収まりきらなかったリコーダー関係のメソードを「コリッシモ」につめて、 インヴォイスを作成して、郵便局に向かう。アパート外に出たとたんに滝のような雨が降り始め、激しい雷も鳴り出す。
荷物を出した後、さらに激しくなった雨に、郵便局の前で少しだけ雨宿り。郵便局の向かいは、いつも行っている顔なじみのパン屋さんとタバコ屋さん。
そのあと、 アパートに戻って、YAMATOに確認の電話を入れて、電話とインターネットのモデム取りはずしをする。

鍵とモデムを置いて、アパートを出るところ。
自分の部屋が自分の部屋でなくなってしまう不思議。

最初、メトロでオペラの近くまで行って、オペラからバスで空港に向かうつもりだった。それだったら、所持金10ユーロで十分に足りる。
アパートを出て、スーツケースをゴロゴロやりだしたとたん、たまたまそこにいたタクシーが、乗れ乗れと言う。「でも、銀行に行かないと金がない」というと、「じゃ、銀行に寄るから乗れ乗れ」としつこい。
いや、でも、いま、テロで空港の検査が厳重で、時間的にも余裕がないし、体力的にも余裕がないので、これは渡りに舟かもしれないと思い直し、オペラまで載せてもらうことにした。
タクシーに乗ったら、「空港まで40～50ユーロだから、空港まで乗ってけ」と言い出したが、それは断ることにした。

3:50。ロワッシーバスで空港に着いたところ。ターミナル2A。
はじめてこの空港に降り立ったときとそっくりの光景。


スーツケース。

チェックイン。じつは、スーツケースも荷物も、２ｋｇぐらい重量オーバーしていたのだけれど、おそらくこのくらいなら大目に見てくれるだろうと
読んでいた。そしたら、スーツケース、重量を測るときに壁に少し引っかかった状態になって、そのままの状態で計量したものだから、実際より５kgくらい軽い重量が表示されて、そのまま通ってしまった。
このあとの荷物検査は、ウワサどおり、かなり厳重だった。でも、その厳重さは、やっぱりフランス人的な感じのどことなくいい加減な厳重さ。

◆ No291： 明日フライト (2007.7.8) ◆

というか、きょうのフライト。
いま、午前五時で、ようやく先が見えてきたところ。

きょうは、荷造りと部屋の退去のための掃除を同時進行をやっていて・・・
部屋は、そんなに汚してはいないんだけれども、コンロ周りやら、窓拭きやら、冷蔵庫の中やら、棚を全部ひっくり返したりやら、トイレや水周りやら、そんなこんなでけっこうな作業量。
こっちの水、石灰水みたいなものなので、とにかく水周りは石灰がこびりついていて面倒。
あと、築何百年か知らないが、そんな感じなので、タイル目地のカビやらも面倒。

きょうは、７時ごろ、室内楽のメンバーの２人が来て、帰国売りでいろいろ買ってくれた。
そのあと、室内楽のメンバーの１人が自宅でパーティーをやるので、誘ってくれたのだけど、残念ながら時間の関係で無理。

荷物は、耐えがたきを耐え・・・、というかんじで、かなり思い切ったものまで捨ててしまったのだけれど、それでもどうしても収まらない音楽書が、７kgある。
でも、明日は（というか、きょうか・・・）午前中にヤマト運輸の集荷が来て、アパートの現状点検をして、電気の検針をして、という感じで動けないので、どうしようもない。
そうしたら、近くに住んでいる室内楽の一人が、かえった後すぐに、親切に「お手伝いすることあれば、近くなので声かけてくださいね」というメールをくれたので、電話して明日の午前中に郵便局の小包パック（コリッシモ）の買い物をお願いしたら、快く引き受けてもらえた。ああ、助かった・・・。

あとは、シーツは洗っておいたほうがよいだろうと思って、コインランドリーに行く予定だったのだけど、時間に間に合わなかったので、手洗いした。
まだ乾いてないが、どうしよう。ドライヤーで乾かすか？

それから、きょうは、Yさんに体重計を返しに行く予定だったのだけれども、メトロの終電に間に合わず、電話をして謝って、明日（というか、きょう）の昼に持って行かせてもらうことにした。

パリからの帰国前日は、こんな感じ。
でも、先に帰った人を見ていても、みんなそんなかんじで、ひとりでがんばって何とかしているのだろう。

それにしても、Yさんに体重計を借りられたのは、本当に助かった。
スーツケースは20kgぴったり、手荷物は10kgぴったり、ヤマトは25kgぴったりのを２つ、コリッシモは７kgぴったり、というかんじで、どれも重量制限ぎりぎりぴったりに詰めた。

ああ、だんだん空が明るくなってきた・・・。

昨日の深夜（明け方）。もうむちゃくちゃ。


今日の昼。タバコを買いに行く。


タバコ屋の帰り。ここも、パリで最も好きな風景のひとつ。


Yさんからお借りした体重計。
とてもちいさくて、レトロで、なんだか欲しくなってしまうような体重計。
ついでに自分の体重も測ってみたら、激ヤセしていて46kｇになっていた。
ちょっとヤバイかも・・・。